kmd-windorchestra’s diary

吹奏楽指導者(JBA会員)、作編曲者、中学校教諭のブログ(吹奏楽指導、作編曲依頼はメールでご相談を)

質問箱8 表現すること

 質問来ていたので・・・かなり久々の質問箱シリーズ。

質問

 先生に「表現が伝わらない」と言われました。どうすれば表現力は身に付くのでしょうか…教えてください。(高校1年生吹奏楽部員)

 

 コンクールの評価においても「技術」「表現」に分かれて審査されることが多い吹奏楽の世界です。「技術」というものは音の善し悪し、リズムの正確さなどある程度訓練によって整えられる部分ではあります。一方で「表現」とは捉えどころがなくて分かるようで分からない領域かもしれません。質問者の彼女は、きっとそのぼんやりした部分が分からずに困っているのでしょう。

 曲の中に物語性を持たせることで1つの表現につながることがあります。「起承転結」を見出すのです。曲全体で見ることと1つのフレーズの中で見出すこともあります。マクロとミクロ両方の視点で構成を考えていきます。クライマックスをどこに盛ってくるのか、そのクライマックスを引き立てる仕掛けは何なのかを考えて構築していくと捉えどころがなかった「表現」が徐々に形として見えてくることがあります。クライマックスは強弱記号でいうフォルティシモだけではなく、和声進行や音価など多面的な視点からクライマックスを探してみると良いでしょう。この場合は楽譜に関する知識が少々必要かもしれません。

 あと吹奏楽の演奏は、非言語による「表現」です。これは相手に伝えるのが大変です。柔らかく演奏したつもりでも打撃音に聴こえていたり、大きく演奏したつもりでも前の場面と差を感じてもらえなかったりすることがあります。相当、オーバーに表出しないと聴き手に分かってもらえないのです。

 分かりやすく言語で言ってみれば、好きな人がいて「君のことが好きだよ」と言っても、この好きであるという想いのどれだけが相手に伝わっているかは分かりません。四六時中、その人のことを思っていてその人なしには生きられないという陶酔状態であっても相手に理解してもらうのって難しいですよね。だから言い方を変えたり態度を変えたり表情を変えたり色々やってやっと少し「好きである」ということが理解してもらえるのです。

 前述したように音楽は非言語表現です。言葉でこれだけ難しいのだから音楽の難易度といったら凄まじいものがあります。好きだというメッセージ性を表現したい場合、好きというピンポイントをアピールしても効果は薄くて、なんで好きなのか、どれくらい好きなのか、結局のところ好きに至るストーリー性が大事になってきます。

 音楽においても訴えかけたい部分を工夫するのではなく、その前後をどう演奏すればアピールポイントをより強調できるかを考えるのです。ギャップが大事です。もし美しく流れる演奏を表現したいならば、あえてその前では鋭さや険しさみたいなものを打ち出しておけば演奏効果があがります。私の音楽づくりはこの辺を合奏で整えていく作業が多くなります。いつもコンクールでは「表現」のほうが点数が高いのはそこに理由があります。(とはいってもそこが弱点でもありますけどね・・・表現したいことはあるけど、それを表現できる技術が追い付かない・・・)

 表現力を身につける方法はいくらでもありますが、あえて理論的に組み立てていって根拠を持って訴えかけるのも1つの作戦だと思います。参考にしてください。