kmd-windorchestra’s diary

吹奏楽指導者(JBA会員)、作編曲者、中学校教諭のブログ(吹奏楽指導、作編曲依頼はメールでご相談を)

波乱万丈

 今日は、新入生説明会のための動画を仕上げました。去年は60秒、今年は100秒ということで持ち時間が増えた分、ちょっと凝ってしまいます。もちろん、演奏の録音と各種、動画を組み合わせていきます。録音時にレコーダーが使えなくなってしまい、スマホで録音したので音声の質が下がってしまったのは残念です。でも、ホールで録音したのは良かったです。

 頭の中にあった構成で作ってみたら余裕で時間オーバー・・・。泣く泣く構成を見直してシンプルに仕上げました。3分くらいの持ち時間がほしいですね。回数を重ねるごとに動画作成の技術も確実に上がってきています。少しでも興味を持って吹奏楽に足を運んでくれる新入生が増えることを願います。

 

 さて、私が最も好きな作曲家の一人である天野正道先生の新しい曲がYoutubeで公開されました。コンクールでも演奏されていたので気になっていました。知り合いも所属しているグラールWOの委嘱作品。巻之壱、巻之弐~哀悼~、巻之参から構成されている大曲です。題名の「波乱万丈」は佐川先生の人生からきているそうです。

 

グラール ウインド オーケストラ 委嘱作品

演奏:グラール ウインド オーケストラGral Wind Orchestra's Website (gwo.org)

指揮:佐川聖二 波瀾万丈

作曲:天野 正道 / Masamicz Amano

2021年6月12日 ミューザ川崎 シンフォニーホール

第40回定期演奏会での初演時ライヴ音源。

youtu.be

 

天野先生のライナーノーツを引用いたします。

 

 世界的なパンデミックが広がりつつあった2020年2月某日、武蔵浦和駅近くの某所でグラールウインドオーケストラ第40定期演奏会委嘱曲の打ち合わせが行われた。

 11年前の第30回定期演奏会では拙曲の交響曲第1番「グラール」を初演して頂いたが、この作品は2007年から2009年までの委嘱作品を1~3楽章として、新たに4楽章を追加して交響曲としてまとめあげた曲だった。故に演奏時間40分を超え、編成にはパイプオルガンも入る大曲となってしまった。それを踏まえてだろうか、今回は15~20分程度の曲を、という発注だったが、佐川さんや団員の皆様方の意見を取り入れて欲しい、ということでこの打ち合わせが開催されたのだった(まぁ、世の中がきな臭くなってきたので今のうちに飲み会をやろう、という口実だったとも思えるが)。

 色々な意見が団員から出たが、その中には「トランペットとトロンボーンのオクターブユニゾンのメロディーを入れて欲しい。激しい曲。宇宙から観る地球。だれも欠けてはならない。サックスは5パート。コンクールではチューバは3本」等の様にさまざまな意見が出てきたのだった。酔いも大分回ってきた頃、佐川さんの鶴の一声「あまにょ、俺の波瀾万丈な人生を曲にしろ!」と。ポルケの時もアダージョの時も、曲の内容は打ち上げの席に於ける佐川さんの一言で決まったのだった。  てな訳で「波瀾万丈」を書き始めたのだが、このコロナ禍で第40定期演奏会は1年延期。コンクールも中止。世の中全てが様変わりしたことは皆様ご存じの通りである。

 作品というのはある意味「生物(なまもの)」で、曲が仕上がってからなかなか演奏されないと腐りかけることがあるのだ。まぁ、時には熟成されることもあるのだが。初演まで時間があると色々と別なアイデアが浮かんでくるのが作曲家の性。色々推敲している矢先、そう、それは7月27日のことだった。グラールのコントラバスクラリネット奏者で、以前から拙曲の初演をして下さったヌーボーこと真崎孝博君が急逝。あまりにも突然のことで俄には信じられず、曲を書くどころでは無くなってしまったのである。今回も本来ならばコントラバスクラリネットが活躍する曲になっていたのだが、彼を想定して書いていたので他の奏者では意味合いが違ってくる。それ故、本日初演して頂くこの曲にはコントラバスクラリネットのパートは入っていない。だが、ステージのいつもの位置に彼の席を用意してもらうつもりである。2月某日の打ち合わせで出た「だれも欠いてはならない」という団員からのタイトル案は、彼の逝去を暗示していたのだったのだろうか・・・

 7月5日には私の母も他界したのだが、このコロナ禍の影響で地元秋田で行われた仮葬儀にも出席出来なかった。二度あることは三度ある、の諺通り8月25日に私も色々とお世話になった佐川さんの奥様、佐川裕子さんがご逝去してしまった。度重なる不幸に見舞われ、ほぼ完成しかけていた曲の殆どを廃棄。かつてのモティーフを使いながらも、全く別な楽想の作品となる。特に「巻之弐」には「哀悼」という副題を追加している。何故か実母の思い出よりも、真崎君のバンド全体を支える演奏、音色、打ち上げでのオネェ的な言い回し、彼が指導していた中学校でのレッスン、そして佐川裕子さんの東京交響楽団在籍中の演奏、あの包容力、お洒落なファッションセンス、打ち上げの席でのエスプリに富んだ会話などが走馬灯の様に駆け巡る。

 実はこの作品、本日の初演演奏はまだ未完成状態である。何故ならば、前述の通りこの作品は佐川さんの波瀾万丈な人生を曲にしているからなのだ。我が尊敬する先輩、そして音楽のみならず人生の師匠でもある佐川さんは、殺しても絶対に死なないので、この作品はどんどん増殖し永遠に未完状態が続くことになるのだ。合掌。 (天野 正道)