kmd-windorchestra’s diary

吹奏楽指導者(JBA会員)、作編曲者、中学校教諭のブログ(吹奏楽指導、作編曲依頼はメールでご相談を)

「センチュリア」について (前編)

 ジェームズ・スウェアリンジェン作曲の「センチュリア」について語ります。ちょうど1ケ月後に私が指揮を務める「綾瀬市中学校吹奏楽団」で演奏予定なので改めてこの曲と向き合おうと思いました。本当はピアノで音を出しながら語ったものを動画公開しようと思ったのですが、しばらく授業をしていない関係で活舌が悪くお聞き苦しいので文字にします(笑)。長いので数回に分けてそこはかとなく書き記します。

 スコアサンプルと参考音源を出版社が出しています。以下のリンクから閲覧できるので必要に応じてご活躍ください。

スコア

https://barnhouse.com/sample.php?action=view&sku=012-1901-00&hash=2730df2627380695e5bdacad13be7b814e1e3f031d6421762b1d788eacaeb2b0

音源

https://barnhouse.com/sample.php?action=listen&sku=012-1901-00&hash=c917c1788f6159325e855815ee1e044b166ec5168f6a1632b961a14c794421a5

 

 「センチュリア」は、J.スウェアリンジェンによって1986年(私が産まれる5年前)に作曲された吹奏楽オリジナル曲です。アメリカの出版社C.L.バーンハウスの100周年に尊敬をもってささげられた曲です。曲の題名も100周年に由来するものでしょう。なんと、世界初演は、埼玉栄高等学校(大滝実先生)ということで日本のスクールバンドなのです。恥ずかしながら今回、センチュリアを演奏することなり初演のことを初めて知りました。作曲者は、この年にバンドクリニックにゲスト講師として来日していたので、この世界初演に立ち会っています。

 サブタイトルに「Overture For Band」と明記しているので日本では、「吹奏楽のための序曲 センチュリア」や「センチュリア序曲」という名で知られています。

 調性を見るとBdurとなっています。

 冒頭の発想記号は、「Stately(♩=88)」となっています。一般的に使われている発想記号を使わずに英単語を用いているのも特徴の1つです。意味は「威厳」ですから「マエストーソ」に近いもの意味で捉えるとよいでしょう。2小節目からはコルネット(トランペットではありません)によるファンファーレが始まります。「F・B・C・F~」の上行するモチーフはAメロの旋律を使用したものです。演奏のポイントはトロンボーンと2、4番ホルン、バリトンユーフォニアムではありません)の下行する四分音符です。メロディーが上に向かい、伴奏が下に向かうことでバンドとしての音域が広がっていくことになります。低い音に行けば行くほど深みのある音にしていきたいところです。中学生などが考えずに吹くと「B・A・G・F」と下がっていくときに息切れして音が衰退してしまいがちです。ホルンの1、2番が同じく1拍目にBを吹いていますから1拍目はそちらの方々に頑張ってもらうとよいかもしれません。4小節目で初めてtutti(全合奏)になります。このときに旋律(例のF・B・C・F)になるのがテナーサックス、ホルン、トロンボーンバリトンです。それらに2拍遅れてピッコロ、フルート、オーボエ、B♭クラリネット、アルトクラリネットなど笛の皆さが引き継ぎます。5小節目では、コルネット、ホルンが最後につないでファンファーレは終わります。1番最初に出てくるコルネットの音の形(音価)を各パートが意識してつないでいけると音楽の流れとしてもよいものになります。聴いて真似するのもよいですが、先ほどから話題にあげている「F・B・C・F」の音を4つ取り上げて同時に演奏してみると音の粒がそろいやすいと思います。5小節目の3、4拍目にritがあります。お好みでブレーキをかける場面ですが、4拍目を♩=72あたりに設定していくと6小節目の予備拍を感じやすくなります。6小節目からのテンポが♩=144なので、その手前が♩=72になるとそのテンポの8分音符が次からの4分音符になるのです。私が指揮をする場合は、ritのところを分割して振ります。それがちょうど次の予備拍になるのでスムーズに場面以降することができるのです。

 6小節目からは「With energy ♩=144」となります。「エネルギーを伴って」としておきましょう。ここで初めて出てくるのが「山型アクセント」です。アップテンポでアクセントがついていると中学生は特に短く雑に演奏してしまいがちです。山型のアクセントは響きをしいかりと伴う音価にするのがおすすめです。「アタック・コア・リリース」がしっかりと1つの四分音符の中にあることを確認して演奏すると結果として響きのあるサウンドを作ることができます。8小節目からモチーフもかけあいが何度かあるので前述したような練習方法が有効です。16、17小節目から18小節目に行くときにクラリネット3番、テナーサックス、コルネット3番、ホルンの2、4番、トロンボーンの3番が4度から3度へと音を変えます。これが緊張感ある和音から落ち着く和音への移行ポイントとなります。これらのパートは下級生が担当しがちですが、重要なパートであることを認識して演奏してもらいたいものです。この和音パターンは何度か出てきます。

 6小節目からは拍子も変わり4分の2拍子になっています。4分の4と4分の2の違いは何でしょうか。音にしてしまえば記譜の上の4拍子も2拍子も言ってしまえば変わりはないのですが、そこには重要な意味があります。4拍子の一般的な「リズム」は「強拍・弱拍・中強拍・弱拍」です。2拍子は「強拍・弱拍」です。オーソドックスな枠組みの話ですが、中強拍がなくなることで、強拍が2拍ごとに現れてより躍動感ある音楽が誕生するように思うのです。

 20からAメロディーがスタートします。木管楽器のメロディーは、フォルテの指定で「lightly」と書いてあります。スウェアリンジェンのこの時期の作品は「フルート濃いめ説」があります。作曲家が想定している楽器の編成がスコアに書いてあることがあります。有名なところでいうと「ロマネスク」のフルートは人数がかなり多めなのです。この曲のスコアを見るとコルネット1~3番が各3名なので合計9名ですが、それに対してフルートは10名となっています。ピッコロも足すとさらに1名追加です。日本の今の出版社の多くはパート譜を1枚ずつしか入れませんが、センチュリアを買うとちゃんとフルートの楽譜が10枚あります。日本のスクールバンドで日々活動していてこれだけの割合にフルートを割いているバンドは少ないと思われます。もし、フルートの人数が少ないバンドで演奏する場合には、結構頑張って鳴らしていかないと作曲家がイメージしたバランスにならない可能性があります。スコアのこういった情報をしっかり見ていくことは、日本で大活躍されている鈴木英史先生も各種セミナーでよくお話されていることです。参考にしてみてください。

 このAメロで注目したいのは4小節目(23小節目)です。先に述べた4度から3度への移行が見られます。そして、もう1つ注目すべきがティンパニーです。VからIへのシンプルな音の移り変わりですが、シンコペーションのリズムになっています。バスドラムやチューバなど低音セクションと同じリズムにすることが多いティンパニーですが、ここでシンコペーションのリズムを持っているのはティンパニーだけなのです。和音が次に進みたい特徴であるとともにそこに躍動感をつくり上げることで推進力を生み出すことに成功しています。こういうところにスウェアリンジェンの素晴らしさが垣間見えます。

 (次回に続く・・・)