kmd-windorchestra’s diary

吹奏楽指導者(JBA会員)、作編曲者、中学校教諭のブログ(吹奏楽指導、作編曲依頼はメールでご相談を)

「センチュリア」について (中編)

 昨日のブログは、約3,000字でしたが何故かアクセス数が普段の3~4倍くらいの伸びていました。読んでいて楽しい文章ではないかもしれませんが、昨日の続きと行きたいと思います。

 28小節目や44小節目からのコルネットのsoliですが、ここにも名曲に共通したカラクリが隠れています。トップのメロディーが「B A G F Es F G A B」と「順次進行(じゅんじしんこう)」になっているのです。順次進行というと堅苦しい気がしますが、音階の隣り合った音へ進むことを意味します。順次進行は、シンプルゆえに変化を付けにくいのですが上手に使うと親しみやすさを産み出すことができます。例えば、クラシック音楽で最も有名なベートーヴェンの第9の4楽章、いわゆる「歓喜の歌」のメロディーは「ファ#ーソララソファミレーミファ#ファ#ーミミ」と順次進行で作られています。この旋律は世界中の人が知っている名旋律です。ちなみに、この旋律のすごいところは「レとラ」の真ん中から始めるところにあるのですが、その話をするとセンチュリアから離れてしまうので本題に戻ります。順次進行を使うことでスウェアリンジェンは、突っつくようなリズムから流れるようなリズムを産み出しています。音符の長さが長くなっていることもありますが、20小節目や36小節目の跳躍進行と28小節目や44小節目順次進行を対照的に並べることで旋律の流れからリズムを産み出すことに成功しているのです。

 52小節目からはBメロディーです。トロンボーンバリトンによるsoliになっています。さっきまでの跳躍進行の縦ノリと順次進行の横に流れるノリとは違うリズムを出してきます。言うまでもなく「変拍子」の登場です。変拍子のアクセントになるのが、パーカッションになります。トライアングル、タンバリン、ヴィブラフォンといった先ほどまでと使用される打楽器が変わります。拍子も変わるが、楽器も変わるというところに注目したいですね。65小節目のtuttiになると、さきほどまで登場していた打楽器群も再度登場します。65小節目のフォルテと71小節目のメゾピアノ、メゾフォルテの差をしっかりと出すことが演奏効果を高める上で大事なポイントです。

 その次はAメロに戻って前半部分が終了します。前半のラスト2小節(94、95小節目)を見てみましょう。和音の進行をみるといわゆる「ツーファイブ」を経てⅠの和音に落ち着く王道パターンです。ただよく見るとFの和音を演奏しているときにGesが入っています。この半音の感覚も正確に演奏したいポイントです。実は、このパターンは何度も出てきます。BメロからAメロに戻る77小節目のフェルマータの部分も同じパターンになっています。王道スタイルにちょっとしたスパイスを加えることで、よりⅠの和音に解決していきたい緊張感を産み出しているのです。

 96小節目からはゆったりとした中間部。吹奏楽オリジナル曲によくある「急・緩・急」の三部形式です。ここではホルンにsoliを担当させています。3拍子になっているところが大きな音楽的な変化です。ここもまた美しい旋律で惚れ惚れするわけです。ホルン奏者にとっても大変吹きやすい音域に設定されています(エスプレッシーヴォもついていますね)。すでにここまでで説明したスウェアリンジェンの工夫がここでも散りばめられています。

 和音の展開型にひと工夫することでベースラインが順次進行になっています。チューバの楽譜を見ると基礎練習のような楽譜なっていますが、これできれいなサウンドを産み出してしまいます。冒頭のファンファーレと同様にベースラインが下がってホルンのメロディーが上がっていくことで音域を幅を広げており、深みを出しています。演奏のポイントはソステヌートになります。「十分に音の長さを保つ」という意味で日本では理解されていますが、ここでは特に3拍目から1拍目に大事に大事に音をつなげていく意識が良いと個人的には考えます。その結果、メトロノーム通りのテンポにならないのもありだと思います。103小節目にritがついていますが、ここでも4分音符にテヌートがついています。テヌートとした結果、音符が伸びて時間も延びたという自然な流れに持っていきたいです。

 112小節目から「More Motion」とあります。「ピウモッソ」のような捉え方でよいでしょう。Gmのコードからスタートになるので平行調の転調のように感じる部分です(まるで短調)。116小節目のトライアングルもついつい頭拍に書いてしまいがちですが、2拍目に設定しているところが本当に「巧い」です。心にためてきたものが、徐々にこぼれていくようなイメージが私の中にはあります。それをきっかけに一気に盛り上がってフォルテになっていくのです。感情爆発のきっかけがトライアングルなのです。中間部でも前述のツーファイブの中に♭を入れるパターンが何度も見られますね。曲調は変わりつつも技法は一貫してるのです。中間部のクライマックスである139小節目のフェルマータのあと、中間部の終結部分では「BCDFB」のモチーフが何度か出てきます。これは、前半終結場面のモチーフを少し変えたものと思われます。この曲の1番最後にも登場しています。順次進行と跳躍進行を足して2で割ったようなモチーフですね。

 146小節目からはブリッジです。テンポが速くなって前半部分に戻る橋渡しの場面です。ここで打楽器アンサンブルを登場させます。どのパートにも見せ場を作るという教育的配慮。だから、パートに関係なくこの曲が愛される理由の1つだと思います。私の経験上ですが、比較的似ているとされている「アルヴァマー序曲」というバーンズの名曲がありますよね。あの曲、私は大好きなのですがトロンボーン奏者の多くがあまり好きじゃないみたいなのです(私の周囲の人だけ!?)。リズムの刻みだけ繰り返しているからというのが理由みたいです。それでハーモニーを作るのにハマった人ならば最高の曲なのですが、色々な役割を楽しみたい人からするとワンパターンに感じてしまうのかもしれません。

 難易度が低めで曲の尺も短い「センチュリア」は、コストパフォーマンスにも優れています。でも、つまらない曲ではないのです。しかけも多いし、見せ所も各パートに用意されていることに今回気づきました。

 今回は2600字くらいになりました・・・。読んでいる人いるのか・・・。

続きは次回(最終回)に残しておきたいと思います。それでは!